衝動

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　十傑集リーダーの座を樊瑞に譲ってからは、あまり任務に出ることのなかったカワラザキが、珍しく任務を引き受けて戻ってきたのはつい先ほどのこと。
　どんな気まぐれで…と噂されたりもしたが、逆を言えばカワラザキでなければ遂行できなかったとも考えられる。
　ほかの者だったら全滅していただろうとだれもが思ったのは、部下が何名か命を落とし、カワラザキ自身も怪我を負ったからだ。
　カワラザキと入れ違いに任務から戻っていた幽鬼は、カワラザキを案じて私室のほうへ詰めていた。
「お帰り」
　スーツの腕と肩のあたりが切り裂かれている。
「幽鬼か…」
　肩を貸そうとするのを遮り、孔明から渡された報告書をテーブルへ無造作に投げ出した。
「大事ないのか」
「ああ、たいした怪我ではない。すでに手当も済ませた」
「そう…か」
　報告書を代わりに書いてやろうかと、取り上げて眺めていた幽鬼に声がかけられる。
「お前、明日は暇か」
「まあ、別段にこれといった仕事はない」
　あまり興味なさそうにうなずき、カワラザキは汚れたスーツを脱ぎ捨ててバスルームへ向かった。
　カワラザキの心が乱れているのは幽鬼が読まなくてもわかる…激しい憤りが表情から十分うかがえる。
　飲んで憂さ晴らしになればと、幽鬼は報告書をそのままにして戸棚から酒瓶とグラス、それに氷を用意した。
　ほどなくカワラザキがバスローブ姿で戻ってきた。
「飲むだろう？」
　手際よくグラスに氷を入れ酒を注ぐ。
　グラスを受け取ったカワラザキは呷りはせず、舐めるように飲み始めた。
　こちらに背を向けている幽鬼をじっと見つめる…やおら立ち上がり幽鬼を壁に向かって勢いよく突き飛ばした。
　突然のことに体勢を取れなかった幽鬼は、ぶち当たった衝撃でずるずると壁にもたれる形で座り込んでしまう。
「じい…さま…」
　その幽鬼の髪を鷲掴みにして顔を上向かせたカワラザキは、噛みつくように唇を重ねてきた。
　息苦しささえ覚えるころ、いきなり唇が離れたと思ったら、掴んだままの髪をひねるように絨毯の上に倒される。
　髪から離れた手は幽鬼の服にかかり、まるで薄い紙でも扱うかのように難なく破っていった。
　こんな状態の…文字通り手負いの獣にも似た…カワラザキに抗うことなど無駄だとわかっており、幽鬼はされるがままになっている。
　無理やりに身体を開かれ、窮屈な孔に熱い塊が押し当てられる…だが挿入は容易ではなかった。
「う…あ…っ」
　女のようにはできていないのだから幽鬼が力を抜いても入るわけではない。
　小さな舌打ちが聞こえた瞬間、カワラザキは手近にあった氷を幽鬼の孔に押しつけた。
「ひ…！」
　冷たさに悲鳴を上げる間もなく、氷が融けながら幽鬼の体内に入ってくる。
　少し開いた孔にもう一度男根を押し当てると、ようやく男根は幽鬼の孔を拡げながら潜り込んでいった。
　氷の冷たさとカワラザキの男根の熱さに身悶え、幽鬼は絨毯をかきむしる。
「あ…はあ…はあっ…」
　喘ぐ幽鬼の口にも氷が放り込まれ、融けた水を飲み込めなくて絨毯にしたたり落ちた。
「ん…んっ」
「締めろ」
　命じられるように孔を締めようとするが氷の冷たさに麻痺してできない。
　苛立ったカワラザキの手で男根がつぶれるほどに握りしめられて、幽鬼はその痛みにカワラザキを締めつけた。
　やり場のない憤りの捌け口にされているのは重々承知だ…それでカワラザキの心が少しでも晴れるのならかまわない。
　最初の精が流れ込んできた…。


　何度、カワラザキが吐精したのかわからない。
　そして何度、幽鬼が意識を失ったのかも…長時間に渡って蹂躙された孔はすでに感覚がない。
　ようやく意識を取り戻したときには、カワラザキの精が絨毯にあふれ出ており幽鬼は指一本動かせなくなっていた。
「すまなかったな…」
　そう言ってカワラザキはほんの少し情けない顔で、幽鬼の髪を撫でてやっている。
　幽鬼はその手を取り、そっと自分の頬に押し当てた。
「俺は…どうでもいいんだ。でも…じいさまのそんな顔は…見たくない」
「そう…か」
「皆、そう思ってる…」
　自分のために犠牲になることを厭わない…そういう者たちのことを思い出しカワラザキは顔を背ける。
　幽鬼は目を閉じ、カワラザキの代わりにひとすじ涙をこぼした。