通りすぎた夜
能力者というのは兎角面倒なものだ。
殺戮だの破壊だのを好むと好まざるとに関わらず、あまりにも長くその能力を使用しなければ、別のところに作用し始める。
それはつまり…なんらかの形で自分の欲望を満たしたいという欲求が高まってくること。
だから幽鬼がセルバンテスに寝室へ誘われて、素直にその行為を受け入れたのも当然といえば当然なのだ。
「じい…さま」
カワラザキに組み敷かれた幽鬼が切ない声を漏らす。
今夜幽鬼は、セルバンテスではなくカワラザキの寝室にきていた。
事情を知っているから、なにも問わずベッドに入れる。
着ているものを脱ぎ捨て、抱きしめて口づけ、くすぐるように背中を撫でてやると幽鬼はじれったそうに身をくねらせた。
カワラザキは幽鬼の手を取ると、心持ち頭をもたげ始めた幽鬼の男根に触れさせた。
「まだその気になれん。自分でやって…儂をその気にさせろ」
カワラザキの目の前で自慰をする…セルバンテスになら求められても拒絶しているだろう。
だが幽鬼は、それがまるで上司の命令でもあるかのように、目を閉じてはにかみながら自分の男根を弄び始めた。
「ん…っ…ふ…」
あまり声を出さないように、顔を見られないようにと堪える幽鬼が愛おしくもあり、苛立たしくもある。
「声が聞こえんのではないか？」
「で、でも…っ」
うっすらと目を開け、憐れみを帯びた表情でカワラザキをうかがった。
「ふむ、自分の手だけでは声を出すほどよくはないか…では、これだな」
サイドテーブルから取り出したのは、カワラザキの男根と似たようなサイズの張形だった。
小さな瓶に入った潤滑剤を張形の上にとろとろと垂らして見せる。
「後ろにも入ってなければ、十分ではなかろう」
張形を手渡された幽鬼は、ほんの少しためらったのち、両足を開いて己の孔を確かめると張形をあてがった。
窮屈な孔が拡がっていく感覚が快感にすり替わり、自ずと官能的な表情を浮かべているのがわかる。
やがてその快感は言葉となって幽鬼の口からこぼれ始めた。
「あ…あっ…あーっ」
片手で張形を緩々と動かし、もう片方の手で男根をしごいて己を昂ぶらせていく。
セルバンテスにもこんな表情を見せ、こんな艶っぽい声を聞かせているのか…嫉妬にも似た感情が沸き起こってくるのを、自分にもまだそんな青い部分があるのかとカワラザキは苦笑した。
「あ…はぁっ…ほ、しい…く…んんっ…」
「どうした？」
「あ…ほん…もの…本物が…ほしい…っ」
「これかな？」
鼻先にカワラザキの男根を突き付けてやると、幽鬼はすべての手を止め張形を突っ込んだままでベッドから飛び降りた。
飢えたようにカワラザキの男根にむしゃぶりつき、手で双球を弄びながら口で完全に勃たせようとする。
上気した顔で上目づかいに愛撫する様は、だれが教えたわけでもないのに女が媚びているそれと似ていた。
…セルバンテスは幽鬼がこんな顔をするなどと知らないだろう…。
「幽鬼」
その口から男根を取り上げ、もう一度ベッドに押し倒す。
物欲しそうに張形を咥えたままの孔から強引に引き抜き、代わりに己の男根を挿入した。
「ひあ…ああっ！」
幽鬼は一瞬顔をしかめたが、張形よりも大きく熱を持ったそれが体内に侵入してくる感覚に、やがて愉悦の表情を浮かべた。
「これがいいか」
「い、いい…っ」
「どこがいい？言ってみよ」
喘ぎながらも恥ずかしがって口にしない。
「言わなければ…こうだぞ」
耳の後ろに口づけ、柔らかそうな耳たぶを口髭でくすぐれば、幽鬼の理性の箍が飛んだ。
「じいさまの…じいさまの大きなのが…俺の奥を掻き回して…っ」
「もっと続けてみよ」
耳たぶを軽く噛んで腰を揺すり上げると、幽鬼は口の端から唾液をこぼしながら、熱に浮かされたように卑猥な言葉を口走ってカワラザキを締めつける。
「も…っと…もっといじめて…めちゃくちゃに…壊して…っ！」
自分しか知らない幽鬼の表情、自分しか知らない幽鬼の痴態…カワラザキは口の端を歪めた。
「お前は、儂のものだ」
その言葉の裏にどういう真意があるのか…なぜ一瞬、カワラザキの脳裏をセルバンテスがよぎったのか…わからぬままに幽鬼はこくこくとうなずいていた。