傀儡
セルバンテスは薄笑いを浮かべて小さくつぶやいた。
「よもや私の能力がこんなふうにも使えるなんてね…ふふっ、ほかの者が知ったら公私混同って詰られるかもしれないな」
そうして目の前に立っている幽鬼を見つめた。
幽鬼は先ほどから微動だにしない。
そう…セルバンテスの眩惑術をかけられて、今の彼は自分が等身大のフィギュアかなにかだと思っているのだ。
だからさっきセルバンテスが呼びつけたときのままの恰好…上着を羽織っただけで腕を組み、その言葉にだまされまいとセルバンテスに向ける冷たい視線のままで、時間が止まったようにまばたきひとつしない。
「実験台になってくれてありがとう、幽鬼くん」
立ち上がったセルバンテスがからかうように肩をポンポンと叩くが、やはり幽鬼はフィギュアのように立ったままだ。
もし彼が普通のフィギュアと違うとすれば、彼にはちゃんと体重があって簡単に倒れたりはしないということだ。
もっとも、幽鬼自身の体重に関してはセルバンテスがどうこうできるものではないが。
「術を解いてしまうのは容易いことだけど…せっかくだから少し楽しませてもらおうかな」
セルバンテスは固まったような幽鬼の身体を軽く抱き寄せ、そっとベッドのほうへ近づけた。
幽鬼の体重があっても、セルバンテスも十傑集の一員なのだから身体を抱えるのくらいは簡単だった。
幽鬼の両足を心持ち開かせ、そのあいだに自分の両足を割り込ませるようにして自分だけベッドに腰かける。
「動くところが少ない人形だけど…服は脱がせられるんだよねえ」
上半身は腕を組んでいるので動かせない。
セルバンテスは幽鬼のベルトを緩め、スラックスのボタンを外した。
マネキンを着替えさせるみたいにスラックスを少しずらすと、シャツの裾がだらしなく出てくる。
その裾から手を差し入れて軽く持ち上げたら、男のものとしては意外なほどに細い腰が現れた。
「ふふ、ちゃんと食べているのかって心配になっちゃうよ」
細い腰のラインを撫で回しながら手を背中へ回し、下着の中へ滑り込ませてやや筋肉質の尻の感触を楽しんだ。
空いているほうの手でファスナーを全開にさせたとたん、それだけを支えにしていたスラックスが幽鬼の足元に落ちる。
セルバンテスはそのまま下着も引き下ろしてしまった。
常な状態のままの男根に目をやり、人形同然なのだから勃起するはずはないのだが手で愛撫しながら幽鬼に口づけた。
「声が聞けないのが…残念だよ」
男根から双球、後ろの窮屈な孔へと指を這わせ、本当の幽鬼だったらあげるであろう声を想像して満足する。
いつしか勃起していた自分の男根を取り出し、そっと幽鬼の男根にこすり合わせてみた。
やがてそれだけでは物足りなくなり、セルバンテスは幽鬼をもっと引き寄せ自分の上に座らせた。
ほんの少し足が曲がりにくかったが、幽鬼の身体はセルバンテスと向かい合わせで膝に座る形となる。
「入るかな」
引き締まった尻を押し開き、窮屈な孔に自分の男根を押し当てた。
固まっているはずの肉体だったが、力を入れているわけではないのでセルバンテスの男根は静かにもぐりこんでいった。
「ふむ…」
セルバンテスはまるで試してみただけだというように小さくうなずき、すぐに男根を引き抜いてしまった。
理由は単純なこと。
この幽鬼は声も上げなければ、先ほどからの難しい表情をなにひとつ変えない…幽鬼が苦痛と恥辱に顔を歪め、切なく甘い吐息と声を漏らす…そんな幽鬼を愛しているセルバンテスにとって、彼は幽鬼であって幽鬼ではないものなのだ。
セルバンテスは自分の男根をしまい、幽鬼の服装を元通りにしてやった。
「まだまだ改良の余地があるね…次は君を睡り人形にして愛してあげたいよ」
そうして渡すはずだった書類を幽鬼の手に持たせてから術を解く。
幽鬼はひとつまばたきをして、自分になにが起こったのかを思い出そうとする…が、無駄だった。
「俺…は？」
「どうしたのかな。書類は渡したよ」
「あ、ああ…」
かすかに首を振って部屋を出ていく幽鬼を見送りながら、セルバンテスは小さく笑った。
「やっぱり君は、そのほうがいい」