翼あるもの

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「…っ…あっ…」
　頑丈なはずの豪奢なベッドがギシギシと軋んだ音を上げる。
　セルバンテスの激しい動きに責め立てられて、幽鬼は許してくれという言葉すら出せなかった。
　窮屈な孔は極限まで拡げられ、内臓を押し上げられるような圧迫感…そのどこに快楽の元があるのかわからないが、幽鬼は激しく喘ぎ、切ない吐息を漏らして己の昂ぶりを吐き出した。
　体内にセルバンテスの放ったものを感じて小さく身震いする。
　いつものセルバンテスなら、ぐったりとしている幽鬼に優しくキスをして眠るまで抱きしめてくれるのだが、今日は違った。
　荒い息を吐く幽鬼を後ろから抱え上げ、ベッドの上に起き上がった自分の男根の上に座らせる。
「う…ああっ」
　幽鬼の両足を抱えて開かせると、そんな場所にはなかったはずの姿見が幽鬼の痴態を映した。
「や…離し…っ」
「私とつながっているのがわかるだろう？ほら、ちゃんと見て」
「も…やめ…あうっ」
　姿見から目をそらそうとする幽鬼の顎をとらえ、その頬に唇を這わせる。
　幽鬼の乱れる様子を姿見越しにながめながら、セルバンテスの耳にはあの言葉が木霊していた。


　久しぶりにカワラザキとチェスの対局をした。
　他愛ない世間話をしながら駒を動かしていたとき、不意にカワラザキが幽鬼のことを切り出した。
「幽鬼はお前のおかげでずいぶん大人になったようだな」
「そう？」
　一瞬ぎくりとした。
　幽鬼とは、そうなれたらいいと思っていたことは確かだが、ほんの些細な切欠でベッドを共にするようになった。
　愛しているとささやくことに幽鬼がうなずいてくれるのが、カワラザキよりも自分を選んでくれたような気持ちになれてうれしかった。
「首筋に平気で鬱血の痕をつけてくる…孔明や樊瑞が見たらうるさかろう」
「つい、ね」
　知っているのならとセルバンテスは悪びれもせず答えた。
「あまりにも愛らしい反応をしてくれるものだから、つい夢中になってしまうんだよ。じいさまの言うこともわかるけれど、私のものだと印をつけたくなってしまう」
　カワラザキより若い分、幽鬼を満足させてやれるはずだとセルバンテスは一種の優越感に浸る。
　しかしそれはあっけなく打ち壊された。
「幽鬼は」
　カワラザキの手がセルバンテスのビショップを取る。
「背中が敏感でな、くすぐるように撫でてやると吐息を漏らしてしがみついてくる。後ろから突かれるよりも正常位が好きで、堪えきれなくなると待ってくれとねだる…」
　表情ひとつ変えず、独り言のようにそう言うカワラザキに、セルバンテスは言葉を失い、ただ見つめることしかできなかった。
「どこが感じるか言ってみろと言うとひどく恥ずかしがるが満更でもないらしい。さらに締めつけてくるからな」
　盤上から顔を上げてちらりとこちらを見たカワラザキの目に苛立って、セルバンテスは思わずチェス盤を手で払った。
　高価な絨毯の上に重厚な駒がごとんと落ちる。
「…もう、やめよう…」
「ふむ。勝負はまたこの次だな」


　自分の知らない幽鬼の身体、自分の知らない幽鬼の反応…カワラザキが幽鬼を抱いているなどとっくにわかっている。
　それでもそんな話を聞かされて、自分の感情を否定されたような気になれば尋常ではいられなかった。
「も…だ、め…」
　いったい幽鬼に何度吐精させたのか、もうわからない。
　それでも幽鬼の心を自分の存在でいっぱいにしたくて…幽鬼の心の中のカワラザキを自分で上書きしたくて、セルバンテスは幽鬼の身体をむさぼり続ける。
　姿見の中のセルバンテスが嫉妬に燃える目で、幽鬼をかき抱くセルバンテスを冷たく見つめていた。