第1話

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　幽鬼がこの会社に入って3年、専務であるカワラザキの秘書になってから1年が過ぎようとしている。
　仕事にも、人間関係にも、もうとっくに慣れたはずなのに…。

　秘書課の簡単な打ち合わせが終わり、幽鬼はまっすぐに専務室に戻ってきた。
　同じ秘書課のヒィッツカラルドが、顔を赤らめている幽鬼に熱があるのではないかと心配していたが、曖昧な返事を返し医務室へ向かうでもなく戻ってきたのだ。
「戻ったか、幽鬼」
　午後からの予定がないカワラザキは、企業に送られてくるDMの類を退屈そうに眺めていたが、幽鬼の姿を見ると目を細めた。
「せ、専務…っ」
　荒い息を吐きながらカワラザキの足元に崩れ落ちる。
「その様子では…誰にも気づかれなかったようだな」
　カワラザキは幽鬼をもう一度立たせ、ベルトを緩めズボンを下ろさせた。
　肌に密着する下着の中、引き締まった尻の間から小さなモーター音がしている。
　さらにその下着なら勃起すればすぐにわかってしまいそうだが、装着された器具で男根が硬くなったとしても上向かないようになっていた。
「ふむ、染みができているな」
　カワラザキは面白そうにそう言って、布地の上から染みのできた…男根の先端を撫で回す。
「あ…あっ…」
　幽鬼が小さな声を上げて顔をのけぞらせた。
「それだ…お前は実にいい顔で喘ぐ…そのような顔をほかの者に見せるのではないぞ」
「は、はい…っ」
　カワラザキが装着してあった器具を外すと、幽鬼の男根は先走りの液を跳ねて屹立する。
「あ、あの…」
「楽になりたいか」
　うなずいた幽鬼の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「言いつけを守れた褒美をやらんとな」
　優しげな声を許可と取った幽鬼は、カワラザキに背を向ける形で豪奢な絨毯の上に額づいた。
　カワラザキも絨毯に膝立ちになり自分の男根を取り出す。
　それから幽鬼の尻に収まっていた小さなローターをやや乱暴に引き出した。
「あ…ん…っ」
　堪えていたはずなのに艶っぽい声が出てしまう。
　ひと息つく間もなく、カワラザキの大きくて熱い男根が幽鬼の孔を犯し始めた…。

　いったいいつからこんな関係になったのか。
　もう思い出そうとしても思い出せないし、後悔も逃れることもできない。
　幼いころから身寄りのなかった幽鬼を、ずっと援助してくれたのがカワラザキだと知ったのは、この会社に入ってから。
　一般的な仕事を覚えるだけで1年ほどかかり、この会社では珍しくもない男性と女性社員が半々の秘書課に配属された。
　それから秘書の資格を取ってカワラザキの下に就いたのが1年前だ。
「あまり急いで手にしたのでは、ほかの者に怪しまれるといかんからな」
　最初はそれがどういう意味なのかわからなかった。
　だがあの夜…遅くまで一緒に仕事をし、食事に誘われてかなり酔った夜、幽鬼はそのままカワラザキに犯された。
　なぜあり得ないことだと騒ぎもせず、抵抗もしなかったのかわからない。
　幼いころから援助してくれたカワラザキを崇拝していたし、仕事の上でも尊敬していたからかもしれない。
　戸惑ったのは、容貌も性格も普通の者よりは見劣りしそうな自分が選ばれたこと。
「儂には信頼できる部下が必要だ」
　犯されながらそう囁かれ、悪い気はしなかった。
　あとでヒィッツカラルドに聞いた話では、たとえ同性同士であってもそういう関係になる者は少なくないらしい。
　いずれにしてもカワラザキは自分を選んでくれた…それだけで幽鬼はその後のこともすべて受け入れられたのだ。
　カワラザキの思惑がどのようなものだったとしても。

「あっ、あっ…あーっ」
　カワラザキの激しい動きに、頬を絨毯にこすり付け指でかきむしる。
「いい具合の締め付けだ。イッていいぞ」
　絨毯に直接射精すれば掃除人に気づかれてしまう…幽鬼はカワラザキに渡されたハンカチで男根を覆った。
「あ…出…る…出ます…っ」
　小刻みに身を震わせて射精し、同じく幽鬼の腸内に射精し男根を抜き去ったカワラザキのほうへ向き直る。
　別のハンカチを手にし、カワラザキの男根を丁寧に拭うとそれを自分の孔にあてがった。
　満足したように葉巻に火をつけるカワラザキの目の前で、頬を赤らめながら先ほどカワラザキの放った精液をハンカチへとこぼす。
「始末してこい。それから…明日の確認だ」
「は…い」
　幽鬼は身支度を整えると後始末のために部屋を出た。
　すっかり慣れてしまった行為は、幽鬼にとってそれが恋愛感情を持とうが持つまいがどうでもよくなっていた。