蜜月
「ああ…うん…うん…」
裸の半身をベッドに起こし、幽鬼は比較的機嫌のよい声で応対している。
「よくしてもらってる…こんなところきたのは初めてだ」
少し長めの休暇が取れた幽鬼は、セルバンテスの厚意で彼の別荘地へやってきていた。
「じいさまは？ああ、そうか…」
電話をかけてきたカワラザキは書類整理の合間。
「うん、問題ない」
その幽鬼の腹にすうっと腕が伸びてきて絡みついた。
「じゃあ…もうすぐ帰る」
電話を切った幽鬼は絡みついてきた腕を押さえる。
「起こしてしまった？」
シーツの海から這い出してきたセルバンテスは、まだ少し眠い目で笑う。
「いや…電話の邪魔をしちゃ悪いと思って黙ってた」
そうして自分も身体を起こし幽鬼の唇に口づけた。
「おはよう」
「…それを言うには遅すぎる時間だ」
ふたりで笑いあってまた口づけを交わす。
「目覚まし代わりに泳ごうか。そのあいだに朝食…いやブランチの用意をさせよう」
寝室の外に面した扉を通れば、目の前にはすぐ広々としたプールがある。
セルバンテスは全裸のままで出ていったが、幽鬼はほんの少し躊躇して…ふたりのほかにはだれもいないのだからと自分に言い聞かせて後に続いた。
きらきらと陽光が降り注ぐ水へセルバンテスがダイブする。
幽鬼はおとなしくプールサイドからおずおずと水中に身を沈めた。
「もう少し陽が高くなったらプールサイドで肌を焼くのもいいね」
しばらく水中で戯れた後、シャワーを浴び寝室に戻った。
あれほどくしゃくしゃだったシーツは使用人によって取り換えられ、今のベッドは未使用みたいに設えられている。
セルバンテスはそのベッドに幽鬼を引き込んだ。
「…まだ、明るいし…」
「じゃあ夜にするよ」
ベッド脇にあるスイッチをひとつ押せば、寝室にいっぱいの陽光を差し入れていた一枚ガラスの窓が、あっという間に陽光を遮断して寝室を闇に変える。
昨夜あれほど愛しあったというのに、セルバンテスは幽鬼の頭をかき抱き何度も何度も口づけた。
そのまま唇を胸へ、臍へと滑らせ、男根にたどりつく。
口に含み巧みな舌使いで嬲ると幽鬼は息を荒げ、セルバンテスの髪に手を突っ込んで愛しそうに撫で回した。
セルバンテスは幽鬼の男根を愛撫しながら、昨夜も使ってサイドテーブルに置かれたままの潤滑剤を手にした。
幽鬼の尻の窮屈な孔に指先で軽く触れる。
「大丈夫？痛かったりしない？」
昨夜の激しい行為を思い出すと傷ついたのではないかと心配しているのだ。
「へい…き…セルが…上手だから…」
荒い息の下からそう言うと、幽鬼なりのお世辞に気をよくしたセルバンテスは、幽鬼の片足を自分の肩に乗せ押し開いた尻に己の男根を差し込んでいった。
「は…あああっ！」
窮屈な孔が広げられ、内臓を押し上げるようにして男根が潜り込んでくる感覚は痛みを伴っていたが、この数日間に幽鬼の身体はすっかり慣らされていた。
「幽鬼くんも上手だよ…私に絡みついてくる…」
「ん…あっ…あっ…」
新しいシーツがすぐ皺だらけになっていった…。
幽鬼が目を覚まし気怠い身体を起こしたとき、セルバンテスは身支度を整え始めていた。
「…出かけるのか」
「うん。野暮用が入ってしまった…ああ、私がいなくてもここにいていいよ」
「いや」
幽鬼も身体を起こし、ここ数日は着けることのなかった下着へと手を伸ばした。
「休暇が残ってて、どんなに素敵なリゾートでも…セルがいなけりゃ意味がない。残りの休暇は本部で過ごすさ」
こともなげに幽鬼はそう言う。
セルバンテスは蜜月の期間が終わってしまったことに、少し寂しい目をしながら幽鬼を見つめていた。