余韻

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　幽鬼はセルバンテスから受け取った書類を持って、そのままカワラザキの部屋に赴いた。
　その書類を元に、次の行動を話し合うというのが今回の趣旨だったから。
　カワラザキの部屋には当人と腹心の部下がひとり…この部下に指示する予定なのだ。
　打ち合わせを始めて十分ほど過ぎたころだった。
　ふと幽鬼は口内に少しきつめの煙草の香りを感じた。
　手で口元を押さえ、自分の記憶を手繰ってみれば、その香りはいつもセルバンテスが愛用している水煙管のフレーバーだと思い出した。
　先ほど確かにセルバンテスを訪ねたが、いつものようにふざけたキスなどされていないし、そんな煙草の香りが移るほど近くで話した覚えもない。
「どうした、幽鬼」
　いつまでも口元を手で覆っているので不思議に思われたのだろう。
　カワラザキにそう声をかけられて、なんでもないと言いかけた瞬間だった。
「あ…っ」
　身体中をぞくぞくとした感触が這い回り、尻をつかまれたような感覚に思わず声が上がる。
「幽鬼？」
　もしや身体に羽虫でも入ったのかとカワラザキが手を伸ばすが、幽鬼は激しく首を振るばかり。
　やがて全身に広がっていた感覚が止まり、今度は男根から双球にかけて動く、手の感触が襲ってきた。
「ふあああっ！」
　自分の意志ではなく、自分で触れてもいないのに身体が勝手に火照り猛っていく。
　服の上からでもそれとわかるほどに男根が勃起していた。
　さすがにこの時点でカワラザキも部下もおかしいと気づき始めた。
「幽鬼」
「幽鬼さまっ」
　駆け寄り助け起こそうとするが、幽鬼はソファの上で背を弓なりに反らし手のつけられない有様だ。
「カワラザキさま、救護班を呼びますか」
「いや…このような幽鬼を他の者に見せるわけにはいかん」
　幽鬼自身はなぜこのようなことになったのかもわからず、快感に翻弄され続けた。
「あー…」
　やがて幽鬼は切ない声を上げ身を強張らせた。
　着衣のままで射精してしまった気持ち悪さに身震いする暇も与えられず、すぐさま次の感覚…後ろの孔をこじ開けられるような感覚が襲ってきた。
「や…うああっ！」
　目を見開き、腰を浮かせる幽鬼をカワラザキはどうしてやることもできない。
　だが、その反応はすぐに収まり、幽鬼はぐったりとソファに沈み込んだ。
「他言は…」
「わかっております」
　カワラザキの言葉に部下が深くうなずいた。


　部下が出ていってから、シャワーを浴びカワラザキのバスローブを借りた幽鬼はひどい自己嫌悪に陥っていた。
「こんな…こんな痴態をさらすなんて…」
「まあ、落ち着け」
　珍しくカワラザキが勧めた薄いウィスキーのグラスに口をつけた。
「セルバンテスとなにかあったのか」
「そんなことは」
　自分に悪戯をするとしたら確かにセルバンテスしかいないが、そんな記憶はない。
「しかし…セルバンテスの部屋へ書類を受け取りにいってから、お前は三十分以上戻ってこなかった」
「まさか…！」
　意外そうな声を上げたのも当然だった。
　幽鬼はセルバンテスの部屋に数分しかいた覚えがないのだから。
「まあ、セルバンテスとなにかあったとしてもその場限りのこと。あのように自慰でもないのに身悶えるとなると…」
「なにか…病気なんだろうか…」
「ワシにはなんとも言えんな」
　ややあってから幽鬼は立ち上がり、いきなりカワラザキに口づけた。
「む？」
「もし…これが病気なんだとしても…消してほしい…同じ感覚や快感に後から襲われるなら、じいさまのほうが…」
　幽鬼の切ない目に小さくうなずいたカワラザキは、その頭を引き寄せて先ほどとは比べものにならない口づけをした。
　やがてその手は、さっきの感覚を上書きするように幽鬼の身体を這い始めた。