対価
部下のエージェントによって、セルバンテスの部屋へ連れてこられた幽鬼は、どことなく薄ぼんやりとした表情だった。
「お連れしました」
「ご苦労さん。それでどれくらいの時間が？」
「孔明さまのお話では…明日の朝までは持続する、と」
セルバンテスは軽くうなずくとエージェントを下がらせた。
孔明が作った秘密の薬は、相手の意識を一度植えつけたとおりに操れるというもの…まだ試作品だというその薬を、セルバンテスは少々危険な任務と引き換えに手に入れたのだ。
それを部下に命じてこっそりと幽鬼に盛った。
「なにか飲むかね？」
セルバンテスがそう尋ねると幽鬼は半分閉じた目でこくりとうなずいた。
「…なんでも…いい」
「ふふ、今日は素直だね。いつもだったらここへ招いても早く帰せの一点張りだったけど」
「そう…なのか？」
幽鬼はそっとセルバンテスにしなだれる。
「こんなに…好きなのに」
とろんとまどろんだ目でセルバンテスを見上げると、奇妙な妖艶さにセルバンテスの背中をぞくぞくとしたものが這い上がってきた。
「私も好きだよ…だからこそ傷と引き換えにあの薬を手に入れた甲斐があったというものさ」
「怪我を…したのか？」
「たいした怪我じゃないよ」
幽鬼がセルバンテスの服に手をかけると、肩のあたりに包帯が見えた。
愛おしむように撫でる幽鬼の手を取り、セルバンテスは片手だけで抱きすくめる。
「私の怪我なんかどうでもいい。愛しあおう…」
何度も何度も口づけを交わし、セルバンテスは器用に幽鬼の服を脱がせていった。
「セルも…脱いで…」
「ああ、もちろんだよ」
せっかく薬が効いているのだからと、セルバンテスは幽鬼をベッドに寝かせ、サイドテーブルからバラの香油を出してきた。
歯でコルクを引き抜くと部屋中に馥郁たるバラの香りが漂う。
「いい香り？」
うなずく幽鬼を横向きにし片足を自分の痛まない肩に乗せて、自分の手に香油を出したセルバンテスは指を一本幽鬼の孔に差し入れた。
「あ…」
「慣らしておこうね」
「恥ずか…しい…」
「かわいいよ」
さらに香油を幽鬼の男根に垂らし、緩々としごき始める。
「両方、気持ちいい？」
「あ…ん…っ…ぬるぬるす…る…」
「気持ちよくなっていいよ」
幽鬼はセルバンテスの指を締めつけながら男根を張りつめさせていく。
「あっ…あっ…」
「イキそう？イッていいんだよ」
「や…あ…汚れ…ちゃう…」
肌触りのよさからセルバンテスが愛用している、シルクのシーツを気にしているようだった。
「汚していいよ。いくらでも代わりはあるから」
「い、いい？ああっ…イク…ぅっ！」
男根から迸った精液がシーツに吸い込まれていく。
幽鬼は荒い息を吐きながら悩ましげな目つきでセルバンテスを見つめた。
「セルの…セルの、欲しい…入れて…拡げて…」
「ああ、私ももう我慢できないよ…」
セルバンテスは自分の男根にも香油を垂らすと、そのまま幽鬼の孔に押し当てゆっくり挿入していった。
「ああ…んっ！」
「いい…いいよ、幽鬼…」
「後ろも…後ろも、ぬるぬるする…ぅ」
再び勃起した幽鬼の男根を愛撫していく。
「は…ふっ…だ、め…ダメ…また…イッちゃう…」
「いいよ。何度でもイッてごらん」
「あ…ああ…っ」
きつく締めつけられセルバンテスは幽鬼の体内に吐精したが、まだ抜こうとはしなかった。
「まだ終わらないよ…離さない…」
「ん…もっと…もっといっぱい…出して…俺の中…いっぱいにして…」
セルバンテスは男根を一度も抜くことなく、幽鬼の腸内に三度射精した。
激しく喘がされ、同じく何度も上り詰めさせられて、幽鬼は息も絶え絶えになっている。
ようやく男根を抜くと、堰を切ったように孔からセルバンテスの精液があふれ出してきた。
「い…やぁ…出…てる…出てるの…見ないで…」
「恥ずかしがらなくていいよ…すごく素敵だ」
興奮状態冷めやらぬセルバンテスは、おもむろに幽鬼の孔に指を差し入れ、精液を掻き出すように動かした。
「は…あああっ！も、もう…いや…気持ちいいの…やあぁ…」
身を震わせる幽鬼をセルバンテスはしっかりと抱きしめた。
部屋中に香油と精液の匂いが充満するころ、セルバンテスは幽鬼にシャワーを使わせ、エージェントに命じて部屋へ帰らせた。
おそらくこの後幽鬼は泥のように眠り、目覚めたときには薬が切れてなにも覚えてはいないはずだ。
自分もシャワーを浴びてバスローブに着替えたセルバンテスは、心地よい疲労感を覚えながらブランデーのグラスを掲げる。
「孔明の薬と対価に流した私の血に…乾杯」
十分に堪能したはずなのに、この傷が治ったらまた薬を求めるのだろうと思いながら。