愛奴(4)

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「ずっと…俺はずっと、じいさまにこうされたかった！奴らの手や舌がじいさまのものだったらと…どんなに…！」
　いつの間にか漏れ始めた嗚咽とともに目を開ければ…そこにはだれもいなかった。
「え…？」
　バスローブも乱れていない。
　あの、部屋へ引き込んだはずのエージェントの気配はもちろん、カワラザキの気配ももちろんない。
　任務から戻ってきて、シャワーを浴びて、ソファで転寝をしてしまったということなのか…。
「夢…だと？」
　だとしたら悪夢としか言いようがない。
　ただ、完全に夢だったとは言えないものがカーペットに落ちていた。
「これは…」
　それはあの日、ヒィッツカラルドにつけられカワラザキによって外されたリングピアスだった。
　拾い上げ、手のひらに乗せたそれをしばらく見つめたあと、幽鬼は腰を上げて着替え始めた。

　カワラザキの私室をノックする。
　眼鏡をかけてハードカバーの分厚い本を読んでいたカワラザキは、幽鬼の来訪にパタンと音を立てて本を閉じた。
　眼鏡を外し、立ちつくす幽鬼を見上げる。
　なにも言葉を発しないのは、なにもかもわかっているから…そんなふうに思えて、幽鬼はカワラザキの前に広げた手を突き出した。
　その上にはあのリングが乗っている。
「…つけてくれ」
　覚悟の上の言葉だったはずなのに、少し声が震えてしまった。
　カワラザキはリングを受け取り、あの日と同じテーブルへと促す。
　幽鬼はためらわずすべてを脱ぎ捨ててテーブルに寝そべった。
　引き出しから消毒用のアルコールを取り出しコットンに含ませて、幽鬼の男根の根元から双球へと続く薄い皮膚を丁寧に消毒する。
「あーっ！」
　身体のどこよりも敏感な部分を貫かれる痛みに、思わず声が上がった。
　カワラザキの手が離れても、その部分だけ脈打っているような気がする。
　いったんその場を離れたカワラザキが、再び引き出しから取り出したのは潤滑剤…それを塗りたくった凶器ともいえそうな己の男根を振りながら、幽鬼のところへ戻ってきた。
　幽鬼はテーブルから降り、横のソファへと移動する。
　そして背もたれに片足を載せて、心持ち尻を開いた格好を取った。
　カワラザキは潤滑剤を塗った男根の先端を、幽鬼の尻の谷間に押しつけ窮屈な孔を何度も何度もこする。
　それが、エージェントの指や舌よりもはるかに太く、自分の身体が引き裂かれるような痛みを伴うだろうと容易に想像できたが、幽鬼の心臓は恐怖だけではなく期待でも鼓動を速くしていた。
「じい…さま…早く…」
「慣れているのか？」
　幽鬼は首を振る。
　だれかの男根を挿入されるのは初めてだと、すでにカワラザキは知っていた。
　指くらいしか入れられたことのない孔をこじ開けるようにして、カワラザキの男根が潜り込んでいく。
「あ…あ…あーっ！」
　革張りのソファに汗が滴り落ち、引き裂かんばかりに爪を立てる。
　先端が全部入ったところでカワラザキは動きを止め、幽鬼の頭を優しげに撫でた。
「さすがにきついな…少し馴染むまでこうしているか」
　幽鬼は口を大きく開けて息を整えようとする。
　少し呼吸が落ち着いたのを見計らって、カワラザキは再び男根を押し進めてきた。
「う…あっ…あっあっ…」
　体内の奥へ奥へと熱い塊が入ってくる感覚に身震いする。
「お前は自ら、あれをつけてくれと申し出た。つまり…儂に所有されたいということでいいな」
「は…い」
　素直に声が出た。
「よかろう。これからは…儂がお前に快楽を与えてやる。もうなにも気兼ねすることはない」
　カワラザキがリングを軽く引っ張る。
　痛みに幽鬼の孔が収縮する。
　それを楽しむようにカワラザキは緩々と男根を引き出し、また押し込むということを繰り返す。
　内臓まで引きずり出されそうな感覚と、それが戻されそうな感覚に、前立腺を刺激された幽鬼もまた上り詰めようとする。
　もしかしたら自分は、悪魔などよりもっと恐ろしいものと契約したのかもしれないと思いながら、幽鬼は期待と快感に身を震わせてカワラザキの精を受け入れた。