愛奴（2）

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　幽鬼は苛ついた日々を送っている。
　カワラザキに対する自分の気持ちを理解できず、あれから何度訳の分からないまま自分を慰めたかわからない。
　幽鬼はシャワーを止め、バスローブに身を包んでバスルームを出た。
　ふと、人の気配を感じてリビングへ向かうドアを開ける。
　書類を持ったエージェントが必要以上に畏まって立っていた。
「なにをしている」
「か、カワラザキさまからの書類をお届けに…ノックはさせていただいたのですがお返事がなく、またカワラザキさまもお急ぎだったようなので…」
「勝手に入った、と」
　幽鬼は不機嫌そうにソファに腰を下ろした。
　能力を使わずとも、この男の言っていることが半分は嘘だとすぐにわかった。
　この男は先ほど、バスルームの自分を覗いていたのだ。
　むろん普通の者ならば覗いたりはしない。
　この男はそういう嗜好があるのだと、服の上からでもわかる股間の膨らみが物語っていた。
「なぜ置いて出ていかなかった」
　男は答えられない。
　やがて幽鬼の中に、いつもは起こりえない感情が湧き上がってきた。
「こっちへこい」
　叱責を恐れ、男は躊躇していたがやがておずおずと幽鬼に近づいた。
「俺の裸など覗いて楽しいのか」
　男は黙ってうなだれる。
　幽鬼はすうっと手を伸ばし、男の股間を軽く指で弾いた。
「ゆ、幽鬼さまっ」
「ずいぶんと興奮しているようだな」
「そ、そんな…」
　この男が自分の苛立ちを解消してくれる…幽鬼は目を細めて命じた。
「跪け」
　言われるままに男は犬のように幽鬼の足元に蹲る。
　その鼻先に足を突き出した。
「舐めろ」
　困惑ではない、明らかに愉悦の表情を浮かべた男は、幽鬼の足を捧げ持ち突き出した舌で丁寧に舐めあげる。
　やがてもう片方の足を男の首にひっかけ、ぐいと顔を近づけさせた。
「全部だ」
　少し上ずった、囁くような声でそう命じれば、男はソファの下に膝立ちになって目の前にある幽鬼の男根に口をつけた。
「ふ…っ」
　慣れているのか、巧みな愛撫に幽鬼の呼吸が乱れていく。
　男はさらに幽鬼を悦ばせようと男根から双球へ、双球から窮屈な孔へと舌を這わせていった。
　そのころには幽鬼も自ら腰を浮かして男の愛撫を受け入れていた。
「は…あ…あっ」
　孔の中に潜り込んだ舌が蠢いて幽鬼を昂ぶらせ、それからまた男根を口に含んで舌技で嬲ると、幽鬼は激しく身悶えながら小さな声を上げて男の口内に射精した。
「あ…じ…い…」
　かすかに漏れた呻きに男の目が光ったことにも気づかず。
「…幽鬼さま…」
　気怠い幽鬼の目に、己の男根を握った男が映った。
　その瞬間我に返り冷たく言い放つ。
「俺に入れようなんて気は起こすな…自分で扱く分には許してやる」
　男は幽鬼に見られながら達する快感を得て、幽鬼の自室から去った。


「どうだった」
　カワラザキの部屋に戻ってきた男は、先ほど幽鬼の部屋であったことを寸分違わず説明した。
「ふむ…そんなことをつぶやいたか」
　その言葉にどんな意図かあるのか男にはわからない。
「それで…次はいつまいりましょうか」
　ほんの少し男の顔に卑猥な笑みが浮かんだのを見て、カワラザキは眼鏡を外して言った。
「そうだな…次など、ない」
　そう言い終わるのと男の身体が床に崩れ落ちるのは同時だった。
「あれを悦ばせただけで十分であろう…これ以上貴様にやるものなどないわ」
　憎々しげにそう言い、カワラザキは引き出しから取り出したあのリングピアスを眺めた。