| BF団本部の地下にはジムがあり、その隣にはサウナが併設されている。 幽鬼は少し身体を鍛えたあとで、サウナに入り、ひとり考えごとをしていた。 「先客か」 突然の声で我に返ってそちらを見れば、ヒィッツカラルドが入ってきた。 腰にタオルこそ巻いているもののヒィッツカラルドの身体を見ると、どうしてもあの乳首に目がいってしまう。 今日はリングをつけていなかった。 「いや、俺はもう出るから」 「フフ、そう嫌うことはないだろう？まだ汗も浮かんでいないぞ」 そういえばタイマーをセットして忘れていた。 たぶんヒィッツカラルドはそのタイマーを見て、幽鬼が席を外したがっていると気づいたのだろう… ほかに理由も思いつかず、幽鬼は再び腰かけた。 その幽鬼の視線に気づいてか、ヒィッツカラルドは笑いながら乳首を指す。 「今日はどうしてリングをつけていないのだと考えているだろう？こんな高温の場所に金属製のリングをつけて 入ったら火傷してしまうじゃないか」 「あ…」 それもそうだと思い直し、幽鬼は小さく苦笑した。 しばらくの沈黙のあと、ヒィッツカラルドはおもむろに口を開いた。 「お前は、どうして私があんなリングをつけているのか、どうして私が身体を苛まれることに慣れているのか、と 思ってるんだろう…知りたいか？」 知りたくない、といえば嘘になる。 ヒィッツカラルドがこうなるまでには、必ずカワラザキの存在があったはずなのだから。 「じいさまが昔、尋問の…いや、拷問のエキスパートだったことを知っているか？」 初めて聞かされるカワラザキのことに、幽鬼は驚き首を振る。 「フフフ、まあ知らないのも無理はない。私も、古参のエージェントから聞いて知ったからな。で、それを聞いた私は じいさまにぜひご教授いただきたいとお願いしたわけだ。だが」 ヒィッツカラルドはいったんそこで言葉を切り、持ち込んでいたドリンクに口をつけた。 「じいさまに言われたことは…まず己の身で知ってみてはどうか、ということだった。つまり、相手を効果的に 痛めつける方法を、だ。しかし…私はミイラ取りがミイラになったわけさ」 自分の身に置き換えてみても到底理解しがたい話に、幽鬼はそこがサウナであるのも忘れて身を震わせる。 「苦痛が快感に変わるだけじゃあない。相手に苦痛を与えたとき、それが我が身に快感となって返ってくるんだ …例えば、相手を真っ二つにしたとき彼はどんな痛みを感じるだろう…そう思うと私はゾクゾクして くるんだよ」 ニヤリと笑ったヒィッツカラルドに、幽鬼はやはりこの男とは相容れないと感じた。 「貴様は…」 渇いた口からやっとのことで出た言葉は、陳腐なものだった。 「貴様はじいさまを、どう思っているんだ？」 ヒィッツカラルドは少し怪訝な顔をし、すぐに意地の悪い笑みを浮かべた。 「ははあ、お前は私がじいさまを盗るんじゃないかと、そう思っているんだな？だがあいにく、それは杞憂だと 言っておこう。じいさまにとってお前と私は違う存在だ」 「違…う？」 「ああ。私はじいさまにとっては単なる教え子に過ぎないが、お前はじいさまの大事な…どう言えばいいのかな？ つまり…愛する存在、だということだ」 他者からそんな言われ方をすると気恥ずかしくなってしまう。 「お前はじいさまの所有物であり、他者が手を触れてはいけないものだ。だが私は違う。自分の欲望のためなら なにをしたってじいさまに怒られる謂れはない」 「そういう…ものなのか？」 「その証拠がお前にはあるんだろう？見せてくれよ」 思い浮かぶのは尻の焼印…幽鬼は立ち上がり背を向けてタオルを少しめくった。 「へえ…こういうものをつけてもらえるのは、お前だけだな」 ヒィッツカラルドの指が焼印をなぞる。 「じいさまのはでかいんだろう？よくこんな小さな尻に入るな」 「…知らないのか」 「知るわけないだろう。私がもらったのはじいさまの腕だけだ。じいさまの身体すら見たことはない」 自分はカワラザキの所有物であり、カワラザキもまた自分だけのものなのだ…そう思うと幽鬼の身体が 急に熱くなってきた。 タイマーのベルが現実に引き戻した。 「…俺はもういく」 「ああ、じゃあな」 ヒィッツカラルドを振り返ってサウナ室を出た幽鬼は、水風呂に頭を突っ込んで冷やす。 尻の焼印がなぜか小さく疼いた。 |