脱ぎっぱなしの服
夜明け間近にレッドは目を覚ました。
暖炉の火は消えかかっているが、まだ寒いというほどではない。
ふと…ベッドで寝ていたはずのサニーの姿がないことに気づいた。
「サニー？」
ベッドは乱れ、脱ぎっぱなしの服がクシャクシャになって置かれている。
起き上がるのがやっとのはずだったのに…とレッドはベッドに触れてみた。
温もりがかすかに残っている。
とりあえず外に出て探すことにした。
城の裏手には小さい湖があり、レッドはまずそちらへ向かってみた。
湖の岸辺に、足跡が続いている…朝靄の中に目を凝らせば、湖の中にサニーがいた。
「なにをしている！」
冬の、寒い朝に…こんな冷たい水の中に、全裸で入っていくなど自殺行為に等しい。
レッドは自分のことなどかまわず湖に足を踏み込んで…全身が総毛立つのを感じた。
サニーの身体は透け、向こう岸にある林の木が見える。
ゆっくりとこちらを向き、儚げに微笑んだサニーがすでにこの世の者ではないような気になった刹那、サニーの姿はふっと消えた。
レッドは今度こそ本当に目を覚ました。
隣に置かれているベッドでは、サニーがまだ小さな寝息を立てている。
意味もなくほっとして、暖炉の埋み火を掻き出し、新しい薪を足して部屋を暖かくした。
「…朝？」
小さな声に目をやれば、サニーが目を覚ましてこちらを見ている。
「もうすぐ、な」
レッドはベッドの上にあったサニーのガウンを取ると、サニーの身体を起こしてやりガウンを
きせてやった。
「散歩にいこう」
サニーを抱えて裏手の湖へ向かう。
朝靄が立ち込める湖はどことなく幻想的で…サニーは白い息を吐きながら微笑んだ。
「…きれい」
「ああ…ここはお前が私に教えてくれた場所だな」
「え？」
「私の夢の中に、ここにいるお前が出てきた…お前にとっていきたい場所なのではないかと思ったのだ」
サニーは少し考えていたが、レッドにしがみついたままでねだった。
「少しいったところにボートがあるの。ボートに乗せて」
言われるままにレッドはサニーをボートに乗せ、オールを漕いで湖の中ほどまでやってきた。
「寒くないか？」
「うん…平気」
ボートを止めさせたサニーはそっと両手を組んだ。
「この湖にはね…お城にあった両親の遺品を沈めたの。もしかしたら、父と母が呼んだのかもしれない」
そうして祈りを捧げるように目を閉じた。
レッドは黙ってサニーを見ていたが、湖の周辺に漂っていた朝靄が、静かにサニーへと
吸い込まれていくのに気づいた。
血の気のなかったサニーの顔に赤みが差してくる。
朝日が昇るのとともに、朝靄が消え、木々を通して陽光が差し込んでくるとサニーは目を開いた。
レッドのほうを向き、穏やかに笑う。
「もう、大丈夫…父と母が助けてくれたから」
その目が力を取り戻していた。
「本部へ戻りましょう」
レッドは軽くうなずき、オールを漕ぐ。
もう自分の足で歩けるようになったサニーを、少しだけ支えながらふとつぶやいた。
「衝撃よ…サニーは私がもらっていくからな」
それから頬を染めるサニーに言い切った。
「本部へ戻ったら魔王にもあわねばな…お前の後見人なのだから」
それがどういう意味なのかに気づいたサニーは、さらに頬を染めながらもしっかりとうなずいた。