銀色の月（レッド）

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　強い光に目を射られ、サニーはゆっくりと起き上がった。
　任務から戻ってきて疲れきった身体を自室のベッドに投げ出し、そのまま泥のような眠りに
落ちたのだと思い出すのに少し時間がかかった。
　中庭へ出やすいためにサニーの自室は1階に置かれている。
　自分の目を射た強い光は、本部の建物の陰になっていても煌々と照っている満月のものだと
わかった。
「きれーい」
　小さくつぶやき、観音開きの窓を開ける。
　風が冷たくなくなった今の時期、月を眺めるにはちょうどいい夜だった。
「あらっ」
　そんな夜に窓からの訪問者は、逆光で顔こそ見えないが赤いマフラーはすぐにわかった。
「レッドさま」
「いい月だな」
「ええ、本当に…こんなにきれいな満月、久しぶりのような気がします」
　昼間の如く輝く月に目を細めるとレッドが意外なことを口にした。
「だが貴様は本当の月の見方を知らんようだ」
「え？」
　月を見るのに方法もないだろうと思う間もなく、レッドはサニーを抱えて自分が降りてきた
ロープを使い、建物の屋根へと運んだ。
　急勾配の屋根、その破風へサニーを座らせる。
　サニーの自室よりはるかに高く、周囲に遮るもののない場所からの眺めは格別だった。
　月は完全な球であり、今夜だけは地球に近づいているのではないかと思えるほど大きく見える。
「わあ…！」
「月とはこのような場所からの眺めがよいのだ」
「本当ですわね…クレーターまでよく見えるみたい」
　自分はこんな場所におっかなびっくり座っているのに、急勾配の屋根をものともせずレッドは
腕組みをして立ったまま月を眺めている。
　サニーはレッドを見上げて言葉を続けた。
「でもこんな明るい月の夜だと、レッドさまの姿も全部見えてしまいますわね」
「フン、こんな夜に忍の仕事はせん」
　そうは言っても、銀色の月を背に立っているレッドの姿は少し素敵に感じられる。
「月面にいても、これくらい満月だとレッドさまが見えたりして」
　クスクス笑うとレッドは相変わらずの仏頂面で一言だけ返してきた。
「探せ」
「え？」
　サニーが聞き返す。レッドはすっと位置を変えてサニーの前に立った。
「私がここ数日、意味もなく月を見ていたと思うか」
「まさか…私を…？」
　意外な言葉に驚いてレッドを見上げた。
　なにも答えてはくれないがレッドが微笑んでいるような気がする。
　しかしその表情は逆光でよく見えない。
　サニーはレッドと銀色の月をずるいと思った。