洗いかけの食器

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「倒れた？」
　本部に残っていた部下からサニーが倒れたという報告を受けて、レッドはかすかに眉をひそめた。
「はい。なんでも自室のキッチンで洗い物の最中に倒れられたとか」
「フン」
　これといった反応を示さず、レッドは書き終えた報告書に署名をした。
　いつもはわざと署名をせず、不備があるといって追いかけてくるサニーが目当てだったのだが。
　不愉快そうな表情のまま、孔明のところへ報告書を提出にいく。
「ご苦労様でした」
　報告書を受け取った孔明は、いつもならば顔も上げないのだが、今日は珍しくため息とともに
レッドを見上げた。
「サニー殿が倒れました」
「聞いた」
　レッドも今日はすぐに立ち去らず、机についたままの孔明を見下ろす。
「過労か」
「なんとも…」
　孔明はほかのアシスタントが忙しく動いているのを見てから、少しだけ声のトーンを落とした。
「まさか…妊娠などということはございますまいな？」
「別におかしくはない」
　あまりにもレッドがあっけらかんと言うので、孔明は顔をしかめる。
「いつから、なのです？」
「さあ…」
「どうなさるおつもりで？」
「責任は取る」
「忍の貴方が？」
　揶揄するような孔明の口調に、レッドの目が鋭く光った。
「忍としてではない。男として、だ」
　孔明はそれ以上皮肉るのをやめ、またため息をついた。
「…はっきりしてからでもよろしいでしょう」
「フン」
　レッドは話は済んだというように孔明の部屋を出た。
　レッドは自室には戻らずサニーの部屋へ向かった。
　部屋に備え付けの小さなキッチンのシンクには、まだ洗いかけの食器が残されている。
　それはレッドが任務へ出かける前にふたりで飲んだカップ…それがふたつ、水をためたシンクの
中に沈んでいた。
　レッドはそれをチラとながめ、サニーが眠っている寝室に入った。
　サニーは血の気のない顔でベッドに横たわっている。
（いつから？）
　レッドはサニーを見つめながら、孔明の言葉を思い出していた。
（いつから私は、お前を好きになっていたのだろうな…）
　初めてサニーにあったとき、サニーはまだ幼い子供でレッドも少年だった。
　似たようなものを感じたのか、なぜかサニーはレッドになつき、どこへいくにもチョコチョコと
ついてきた。
　レッドはそんなサニーを時に案じ、時にからかいながら今まできた。
　そしてレッドは大人になり、十傑集にヒィッツカラルドや残月が加わり、サニーの周囲には
若い男が増えた。
　無関心を装いながらも、ほかの男がサニーに声をかけるのを少し気にした。
「なあ…」
　レッドは傍にあった椅子を引っ張り、そこに腰かけた。
「お前に、一番最初にであったのは…私なのだぞ」
　目を閉じ、昔を懐かしむようにそう言ってサニーの髪を撫でる。
「もしかしたら…そのときから、私はお前を愛していたのかもしれんな…」
　ベッドからこぼれていたサニーの手を取り、そっと中へ入れてやるとレッドはその場をあとにした。