直らない寝ぐせ
窓から差し込んでくる陽光には気づいていた。
確か今日は休みのはずだったと思いながらゆっくりと目を開け…サニーは隣で寝ているはずの
男の姿がないことを知った。
（…いっちゃったのね…）
昨夜はレッドの腕の中で可愛らしい悲鳴を何度か上げた。
初めての夜は、自分が思っていたような緊張も恐怖もなく、ただレッドにされるがままに
なっていた。
涙は少しこぼれたけど、それがなんの涙だったのかは思い出せない。
「…泊まっていって」
サニーがそうねだるとレッドは優しく髪を撫でながら問うた。
「眠れそうにないか？」
「…寂しいから」
「私がここにいるのに？」
「…うん」
できればこのまま、朝まで抱きしめていて欲しかった。
せっかくひとつになれたのに、今離れると心までが離れてしまいそうに思えたから。
「ここに泊まると魔王に殺される」
笑いながらそう言うレッドにしがみついた。
「…バカ…」
尖らせたサニーの唇をレッドがふさぐ。
「まだ夜明けまで間がある。こうやって抱いているから…眠れ」
「眠ったら、レッドさまがいっちゃう…」
「そうだな。明日も仕事があるからな」
「…離れたくない」
耳元でレッドはクスクス笑った。
「わがままだな」
「…きらい？」
「いや…愛してる」
「じゃあ、いて」
何度も何度もループする会話…きっとそれを繰り返しているうちに眠ってしまったのだろう。
サニーは朝のシャワーを浴びるため、のろのろと身体を起こした。
ずれた上掛けからのぞく乳房に小さく鬱血の痕がある。
（レッドさまの痕…）
（でも、夕方くらいになったら消えちゃうんでしょうね…）
ベッドから降り、昨夜レッドが叩きつけた携帯の残骸を拾ってため息をついた。
（孔明さまに、どう言い訳しようかしら…）
乱れた髪をかきあげて…先ほどからやけに顔にかかる鬱陶しいひと筋に気づいた。
（変な寝ぐせ…）
元々サニーの髪は癖っ毛ではあるが、こんなふうにカールすることはない。
（あ…！）
そこで初めて、この髪は昨夜レッドと話していたときに、ずっとレッドが自分の指に巻いていた
部分だと思い出した。
駄々をこねるサニーをなだめるように、レッドはサニーの髪を指に巻きつけては解き、
巻きつけては解きを繰り返していたのだ。
しかもこの癖のつき方だと、サニーが眠ってしまってからも立ち去るまで巻いていたっぽい。
先ほどまでの小さな寂しさが、今度は気恥ずかしさに変った。
「も…もう、レッドさまったら！このカール、直らないじゃないのっ。だれかに気づかれたら
どうするのよっ」
鏡を覗き込みながらわめいてみる。
ブローすれば直るかもしれないが…そうしてしまうには惜しかった。
サニーは寝ぐせの部分を自分の指に巻きつけてみる。
「…こんなのも、悪くないかも」
レッドの指を思い出し小さく声を出して笑う。
だれに気づかれてもいいと思いながら、サニーは着替え、携帯を替えてもらいに孔明の部屋へと
向かった。