しみついた匂い
レッドは静かに間合いを計っている。
切り刻んだ敵の数はもう2桁に達しているはずだが、いまだに追撃の手を緩める様子はない。
頬に飛んだ返り血を拭った。
「さて…あとどれくらい死にたいやつがいるのかな」
血のついたクナイをふざけて舐めると、口の中に独特の味が広がる…それがかえってレッドを
滾らせた。
「逃げも隠れもせんぞ。死にたければかかってこい」
ニヤリと笑ったその顔に不気味なものを感じ、一瞬敵が怯む。
忍同士の戦闘ならば淡々と、静寂の中で行われるものだが、今日の相手は違う。
一般の、まだエキスパートになりたてが血気に逸ってレッドに向かってきたのだ。
そろそろ実力の違いというものを見せつけてやるべきか…いや、下手に長引いて九大天王クラスが
出てきても面倒だ。
そんなことを考えていたときだった。
「マスク・ザ・レッド、これを見ろ！」
突然の声に目を向ければ、サニーが銃を突きつけられている。
…ついてきた？なぜ？
レッドは息を呑んだが、すぐ平然とした態度で嘲笑った。
「ほほう、国際警察機構とは分が悪くなると人質を取るのか」
「黙れ！この娘も貴様と同じBF団なら、我らにも敵だ！」
自分の身くらいは守れるようにと教えたはずだったが…とレッドは小さく舌打ちしたが、なんにしてもサニーに傷ひとつでもつけば樊瑞が黙っていないのは目に見えている。
…さて、どうする？
促され、サニーがおずおずと呼びかけてきた。
「レッドさま…反撃の機会はあります。私のことは心配なさらず、逃げてください！これ以上無駄な血を流さないで！」
「小娘っ！」
サニーが銃で小突かれるのを見て、レッドは敵の中心へと躍り出た。
「ハ！どうした、この娘が心配で我らに捕らわれると言うか」
「いやァ…」
レッドはやはり笑っていたが、その目には怒りの色があった。
「命が惜しいばかりにくだらぬ茶番を見せられるのは…嫌いでなァ！」
その場のだれもが、自分の死の瞬間を知ることはできなかった。
レッドが動いたと思うのと同時に、鋭い痛みとともに斃れていったのだから。
「レッドさま…！」
安堵して微笑むサニーに、同じように笑い返してやる。
「とにかく全滅するのは免れようと、お前を使って私を追い返そうという魂胆だったらしいが…
とんだ茶番だ」
「え、ええ」
そう言ったあとで間髪を入れず、レッドはサニーの脇へクナイを突き刺した。
「な…なぜ…」
「貴様らは知らんだろうがなァ、あいつは私の身体に染み付いた血の匂いを嫌ったりはしないのだよ」
ドサリとその場に倒れたサニーの顔をつかむと、その下からは別の人間の顔が現れた。
「手の混んだことをしてくれる…あァ、あとひとつ言っておくと、あいつの身体には花の香りが
染み付いていてな、そこまで似せなきゃ私はだませんと思えよ…って、もう聞こえんか」
「おかえりなさい、レッドさま」
本部に戻ればすぐに本物のサニーが駆け寄ってくる。
抱きついたサニーを血で汚れた手で抱くことに、ほんの少しためらいを感じたがすぐ抱き返して
やった。
「ケガは…してない？」
「ああ…全部敵の血だ」
レッドが尋ねる。
「いやじゃないのか」
「別に…レッドさまの任務はこういうものだと思っているから」
サニーの身体からは花の香りが漂っている。
もし世界がBFのものになって自分が血に塗れぬようになったなら、そのとき自分にはどんな匂いが
染み付くのだろうとレッドは考えた。