桃色の桜並木（レッド）
サニーは形見としてアルベルトが使っていた古い城をもらった。
父同様にほとんど本部にいることが多いため、めったに帰ることはないが気晴らしの散策など
したいときには、南海の孤島にある本部よりこの土地のほうがいい。
昔は荘園などあってそこそこ住人もいたのだろうが、今では人々は住みやすくて便利な都会へ
流れ出し、城の周囲はなにもない場所になってしまった。
サニーはこの城をもらったときにひとつだけわがままを言った。
それは城へと続く道に桜の木を植えてもらうこと…エージェントを総動員して1キロほどの道程に
桜並木の通りができた。
桜の木が生育に適しているとか、住人が戻ってくるだろうかとかそんなことはどうでもよかった。
以前に一度、レッドが里の話をした。
春になると山桜の花が満開になり、風でも吹こうものならそれはそれは見事な桜吹雪になるのだ、と。
植えられた桜は山桜ではないけれど、花開いた最初の春にはサニーが驚くほど美しい吹雪を
見せてくれた。
初夏の今、桜の木は全部青々とした葉を生い茂らせていて、そこいらにある普通の木となんら
変わりはない。
桜色のワンピースで並木道を散策しながら、サニーは木漏れ日に目を細めた。
「たまにはお城の風通しと思ってやってきたけれど…やはり春じゃないとこの道の美しさも半減ね」
ふと、他愛ないことを考える。
本当に…自分は桜の花が見たくてこの木を植えたのだろうか。桜の花が好きらしいレッドのために、
植えたのではないだろうか。
「魔法で花が咲かないかしら！」
照れ隠しも手伝ってそんなことを大声で言ってみた。
呪文を唱えれば季節外れの桜が咲き、初夏の風に乗って花びらが舞い散る。
「ふふ…私がいたら、一年中桜の花が見られるのにね」
口の中で小さくそんなことをつぶやいたときだった。
桜の花の中を影がよぎった。
「え…っ？」
強い日差しに目を細めて桜を見上げると…影がサニーの前に下りてきた。
「レッド…さま？」
「桜が咲いたから、きた」
腕を組み、無愛想にそう言う。
「貴様の魔法は便利なものだな。桜の花までだますことができる…私を呼ぶことも、な」
サニーは喜びを隠し切れない表情で肩をすくめた。
「でもいつまでもだませてはいられませんわ。すぐに散ってしまいますもの…レッドさまも、
いってしまわれるでしょう？」
「私はだまされたわけではない」
そうしてレッドはごく自然に腕を曲げた。
「今日は呼び出しもあるまい。せっかくの桜だ、少し歩くか」
サニーが拒むはずはなかった。
大急ぎで歩み寄り、レッドの腕に自分の腕を通した。