黄色い信号（幽鬼）

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　黄色い信号が点滅を始めている。
　珍しく街中へ出てきており、交差点で信号待ちをしていた幽鬼は、自分の横に立っていたサニーが
いきなり駆け出したことに驚いた。
「おっ、おい！」
　信号など目もくれず、交差点を渡ろうとする。
　すでに信号は赤に変わっており、突っ込んできた車が激しくクラクションを鳴らした。
　幽鬼はとっさにサニーの腰に手を回し、強引に歩道へ引き戻した。
　怒鳴り声に運転手をちらと見やり、少しむかつきはしたもののこんな街中で騒ぎを起こすのは
得策でないと、サニーを物陰へと引っ張っていく。
　サニーはというと、もう交差点の向こうへは興味を失ったようで、明らかに失望した表情で
うなだれていた。
「…危ないぞ」
「ごめんなさい…」
　消え入りそうな声…やがてそれは涙に変わり、サニーはうつむいたまま涙を拭う。
「お、おい…」
　再び幽鬼はあわてる。
　こんな…久しぶりの街で泣かれるなんて困ってしまう。
「ごめんなさい、幽鬼さま…バカですよね、私…本当に…バカみたい…」
　幽鬼はうろたえ、人目を気にして視線を彷徨わせた。
「い、いきなりではなんのことかわからない。そこのカフェにでも…まずは落ち着いてくれ」
　とりあえず雰囲気のよさそうなカフェを見つけ、奥まった席に座らせた。
　コーヒーとカフェオレを注文し、ようやく泣き止みはしたもののまだうつむいているサニーに、
優しく声をかける。
「…なにか、見かけたのか？」
「…父を」
　そこでやっとサニーは顔を上げて無理に微笑んだ。
「バカですよね、私。そんなこと、あるはずないのに…父に、よく似た人が…角を曲がって…」
　言葉が途切れたらまた泣かれてしまいそうな気がして、幽鬼はちょうど運ばれてきたカフェオレを
勧めた。
「サニーが駆け出した理由が衝撃でよかった」
「え？」
　怪訝そうなサニーに幽鬼は苦笑する。
「もし…いい男を見つけて、だったらどうしようかと思った」
　珍しい幽鬼の冗談にサニーは声を上げて笑った。
「まさか…ひどいわ、幽鬼さま以外の方に目がいくと思っていらっしゃるの？」
「実際に駆け出したではないか」
　話がループするかと思ったが、サニーは普通にカップを傾けた。
「ちょっと動転してしまったんです。でももう大丈夫…落ち着きましたから。まだ
受け入れられないのかなって、落ち込みそうですけど…」
「似た人間などいくらでもいるさ」
　やっと明るさを取り戻したサニーに安心し、幽鬼はカフェを出た。
　交差点に差し掛かると、黄色い信号が点滅を始めている。
　幽鬼は無意識にサニーの手をつかんでいた。サニーはその幽鬼を見上げる。
「大丈夫です。もう駆け出したりしませんわ。でも…手は離さないでください」
「離さんさ。もうだれを見かけても駆け出したりさせん」
　幽鬼は少しだけ頬を染めながらそう言った。