| 戴宗はぼんやりとひとりの時間を過ごしている。 警護、との仕事は聞こえはいいが退屈でしょうがない。 ましてや、だれも襲ってくる様子もない、こんなものの護衛では。 酒を飲むことは禁じられていない。 だが、どんなに飲んでも退屈は消えそうにない。 おまけに酒のせいで身体がやたら熱くなってきた。 こんなときに思い出すのは、決まってあの男のこと。 戴宗はそっと下半身に手を伸ばした。 …いつものことだな…と自嘲めいた笑いを浮かべる。 パブロフの犬ではないが、あの男のことを考えて身体が熱くなるときは何故か勃っているのだ。 今ここに中条でもいてくれたら、この疼きを止められるのに…あいにく彼はおらず、この基地に 戴宗を慰められるような者はいない。 （…くそったれ） 自分自身を罵って、男根を弄くりながら戴宗は電話を手にした。 かかってくることはあっても、こちらからかけることなど一生ないだろうと思っていた番号を押す。 『…貴様か』 敵であるはずの男の、その低い声を聞いただけで身体の熱はさらに上昇する。 『珍しいこともあるものだな、貴様からかけてくるなど』 「別にアンタだけの専売じゃねえだろ、電話は」 そのくせ、まだ素直に認めることのできない自分がいる。 『…貴様、酔っているな』 「悪いのか」 本当は甘えてみたいのに言葉が上手く出てこない。 『そうやって絡むあたりが酔っている証拠だな』 本来ならあの男が一方的に呼びつけるために使っている電話。 そのために与えた番号へ、こういう形でかけてくることをあの男が好まないことを、戴宗はよく知っている。 『…切るぞ』 戴宗は唇を噛み締め、振り絞るように言った。 精一杯の甘えだった。 「アンタの声が…聞きたかったんだ…」 切るぞと言いながら、電話が切られる様子はない。 ややあってからあの男の、笑いを含んだような声がした。 『貴様らしくない』 戴宗はなぜか幾分ほっとしながら会話を続ける。 「そうか…？ 実はずっとアンタのこと考えてた…って言ったら、アンタ笑うか？」 あの男の忍び笑いが聞こえる。 『笑わんな…と言ったら、貴様が笑うか』 いつものような軽口。 『儂のことを考えて…なにをしていた？』 「アンタの想像通りのことさ…笑えよ、アンタの声聞いたら勃ってきちまった」 『悪くない』 戴宗は男の筋肉質の身体を思い出した。 その身体で己を何度蹂躙されたかわからない。 心では男のことを憎んでいるのに、肉体は男に惹かれていき…こういう孤独の折には 思い出されて仕方がないのだ。 そして…その感情を『愛』と勘違いしてしまうほどに。 『ふふ、貴様を呼びつけるには少し遠い。儂がいくには時間がないな』 その言葉に少し失望する。だが強がった。 「そいつは残念だ。でも…アンタの声聞いてるだけでいいよ」 男の低い声を聞きながら、男根を弄ぶ手が激しくなる。 声が上ずってしまったような気がして、一瞬焦った。 『なにを使っている？』 …てめェとは違うよ…そう言いたいのをこらえて返した。 「なにも…俺の手だよ…俺の手を、アンタの手だと思ってやってんだ。ホラ」 こういうことを言うとあの男は喜ぶのだ。 戴宗は電話を顔から離し、下半身へ近づけた。 戴宗の指がかすめるたびにクチュクチュと卑猥な音がする。 「ちいっとばかし仕事でひとりだけなんだ…満たしてくれるやつなんざいねェ」 『足を開け、戴宗』 間髪を入れずいつものように命令がきた。 『貴様の淫らな穴に指をねじ込め。声を出して儂を欲しがってみろ』 一刻も早く、この身体の疼きを鎮めたくて、戴宗は言われるままに男根をしごいていた手を後ろへ回し、 肛門に指をねじ込んだ。 窮屈なはずの筋肉がこじ開けられ、男の男根と想像する指がするりと飲み込まれる。 戴宗の声はやがて小さなうめきになり、あえぎへと変わっていった。 えぐるように動かすと戴宗の理性が吹っ飛んだ。 いつものようにわざと卑猥な言葉で、男をねだり自分を貶める。 「ああ…アンタが…アンタのが…欲しい…俺を思い切り突き上げて… 泣かせて欲しいんだ…」 『今日はずいぶんと素直だな』 男の声も心なしか乱れているような気がする。 戴宗は半ば自棄を起こしたようにわめいた。 「ひどくされてェんだよ…俺にだって、こういう日が…う…ああ…」 声が荒くなる。 もう悠長に話しているなんてできない。 『出せ、戴宗。儂に聞かせろ』 その言葉が終わるか終わらぬかのうちに、戴宗は男の名を呼びながら激しく吐精し、己の身体を汚した。 なんとか呼吸を整えようとしているところへ男の声がした。 『イッたのか戴宗。貴様のことだ、ずいぶん出ただろう』 わざと下世話な言葉で尋ねてくる。 あの男はそういうふうにするのを好むのだ。 「ああ…アンタと同じくらいにな」 『儂のだと思って飲め』 戴宗は自分の手の中にある、己の放ったものを見た。 何のためらいもなく口に運ぶ。 独特の香りが口の中に広がり、いっそう男が欲しくなってしまう。 「ヤバイな…余計アンタに会いたくなった…」 『すぐ会える。貴様の仕事が終わり、儂の任務が終わればな』 電話の向こうから快活な笑い声がする。 少し落ち着いたら、先ほどの勝気が戻ってきた。 「…安心したよ…俺もアンタもまだ死なねえ…」 『当たり前だ。貴様を殺すのは…儂だからな』 殺される前に、あの男はどんな嬲りをしてくれるのだろうか。 「違ェねェ…」 少しそれが楽しみに思えてしまう。 男をからかってやるつもりで戴宗は電話にキスをした。 男もキスを返してくる。 戴宗は満たされた気分で電話を切った。 次に電話が鳴るときを楽しみにしながら。 |