| アルベルトの電話が鳴る。 十傑集も、おそらくはイワンですら知らない電話のベルが。 「…貴様か」 その電話を知るものはたった一人。 それも敵であるはずの男。 「珍しいこともあるものだな、貴様からかけてくるなど」 『別にアンタだけの専売じゃねえだろ、電話は』 その声を聞いただけで、相手の様子がわかるほどの仲になってしまった男だ。 「…貴様、酔っているな」 『悪いのか』 「そうやって絡むあたりが酔っている証拠だな」 本来ならアルベルトが一方的に呼びつけるために使っている電話。 そのために与えた番号へ、こういう形でかけてくることをアルベルトは好まない。 「…切るぞ」 そう言いながらも相手の返事を待つ。 ややあってから小さな声が聞こえてきた。 『アンタの声が…聞きたかったんだ…』 アルベルトは小さく唇を歪めるとネクタイを緩め、改めて電話を持ち直した。 「貴様らしくない」 『そうか…？ 実はずっとアンタのこと考えてた…って言ったら、アンタ笑うか？』 アルベルトの苦笑がひどくなる。 「笑わんな…と言ったら、貴様が笑うか」 電話の向こうで忍び笑いが聞こえた。 「儂のことを考えて…なにをしていた？」 『アンタの想像通りのことさ…笑えよ、アンタの声聞いたら勃ってきちまった』 「悪くない」 アルベルトは男の筋肉質の身体を思い出した。 その身体が己の身体の下で、面白いように跳ね上がりのたうつ様を思い出し、男が愛しく思えてきた。 「ふふ、貴様を呼びつけるには少し遠い。儂がいくには時間がないな」 『そいつは残念だ。でも…アンタの声聞いてるだけでいいよ』 ほんの少し男の声が上ずっているように感じる。 「なにを使っている？」 『なにも…俺の手だよ…俺の手を、アンタの手だと思ってやってんだ。ホラ』 一瞬男の声が遠ざかり、クチュクチュと湿った音が聞こえた。 『ちいっとばかし仕事でひとりだけなんだ…満たしてくれるやつなんざいねェ』 「足を開け、戴宗」 いつも愛し合っているときのように命令する。 「貴様の淫らな穴に指をねじ込め。声を出して儂を欲しがってみろ」 上ずった男の声は、やがて小さなうめきになり、あえぎへと変わっていった。 『ああ…アンタが…アンタのが…欲しい…俺を思い切り突き上げて… 泣かせて欲しいんだ…」 「今日はずいぶんと素直だな」 『ひどくされてェんだよ…俺にだって、こういう日が…う…ああ…』 声が荒くなる。 「出せ、戴宗。儂に聞かせろ」 その言葉が終わるか終わらぬかのうちに、男はアルベルトを呼びながら絶頂の声を上げた。 ハアハアと荒い息が聞こえる。 「イッたのか戴宗。貴様のことだ、ずいぶん出ただろう」 わざと下世話な言葉で尋ねてやる。 男はそういうふうにされるのを好むのだ。 『ああ…アンタと同じくらいにな』 「儂のだと思って飲め」 しばらくの後、満足げな声がした。 『ヤバイな…余計アンタに会いたくなった…』 「すぐ会える。貴様の仕事が終わり、儂の任務が終わればな」 電話の向こうから快活な笑い声がする。 『…安心したよ…俺もアンタもまだ死なねえ…』 「当たり前だ。貴様を殺すのは…儂だからな」 『違ェねェ』 受話器口からキスの音がした。 アルベルトも返してやる。 それから満たされた気分で電話を切った。 次はこちらが鳴らしてやる番だ、と。 |