| それは本当に何気ない行為。 樊瑞は自分の前で作戦の指揮を取る孔明の後姿を見ていた。 艶やかな黒髪に白いものが見え隠れする。 しばらく目を凝らして、それがどうやら羽扇からこぼれた羽毛らしいと気づいた。 声をかけるより先に、樊瑞の手が動いて髪の羽毛に触れた。 「…！」 振り向いた孔明の顔は、樊瑞が今までに見たことのないもので…初めて見せた孔明の苦々しいような表情に、 樊瑞は驚くより呆然としてしまった。 黙ったままで羽毛を見せれば、孔明はなにも言わずに唇を噛んでまた前を向いた。 「先ほどは失礼いたしました」 たいしたことではないのに、孔明は己に落ち度があればこうして素直に謝意を表す。 「いや、声をかければよかったか？」 樊瑞が尋ねると孔明は珍しく答えを迷っているようだった。 たかが羽毛ごときがついているといちいち樊瑞を煩わせるのもおかしな話だし、かといって先ほどの表情を 説明する気にもなれない…。 「どうした？」 樊瑞が不思議そうに尋ねてくる。 「いえ…今朝ほど髪を整えたのにゴミがついているなど思わなかったものですから」 とてもそのくらいのことで見せる表情とは思えない…樊瑞はふと孔明の髪に手を伸ばした。 「触れるな！」 反射的に大きな声を出し、孔明はすぐ我に返った。 「し、失礼…」 「なぜ、そこまで嫌がる？」 「…深い意味などありません」 羽扇で口元を覆うときはなにかを隠しているとき…樊瑞が孔明をグイと引き寄せ、強引にその髪に 触れた瞬間孔明はその場に崩折れた。 寝室へ運び、ベッドに寝かせた孔明の散らばる髪を見るうち、樊瑞の中に嫉妬にも似た感情が沸き 起こってきた。 自分がどんなに深い愛撫をしたとてこれといった反応を見せない孔明…その孔明が髪に触れるだけで、 あれほど取り乱し気を失うなど許せなかった。 樊瑞は孔明の髪をひとすじ取り、孔明の服を脱がせにかかった。 「ふ…っ」 奇妙な感覚にようやく孔明は目を覚ました。 己の両足のあいだに迎え入れているのは、いつもと同じ男…だがいつもと違うのは己の脳を 痺れさせるような感覚。 「どうかな孔明、己のものを己が髪に縛られる感覚は」 「な…っ！」 見れば確かに己の男根に黒いものが絡みついている。 そう見止めた瞬間から孔明の身体が熱を帯び始めてきた。 「や…っ…解い…て…」 まるでそれがおぞましいものでもあるかのように、孔明は顔を覆う。 樊瑞はいつになく乾いた唇を舌で舐め、孔明から離れてしまった。 孔明が恐る恐る目を開ければ、樊瑞は孔明の足元に胡坐をかいて座っている。 「解いてほしければ、まずはワシから解いてみろ…お主自身で挿れて、な」 樊瑞の男根にも黒いものが絡みついている…それが己の髪だとわかるのに時間はかからなかった。 孔明は唇を噛み、のろのろと身体を起こして樊瑞にしがみついた。 己の指を唾液で濡らし、窮屈な孔に触れて滑り具合を確かめる。 それからおずおずと樊瑞の男根に腰を下ろしていった。 「う…ああっ」 いつもはこんな感覚になったことはないのに…髪で括れのできた樊瑞の男根がひどく感じる。 いつもはなんとも思わないものが…ひどく熱く…大きく…感じられる。 「あーっ！」 樊瑞の上で孔明が身体を大きくのけぞらせた。 「昔…そうBFにおあいする前のことです。夢破れた私は…河へ身を投げたことがあるのです」 樊瑞は頬杖をついて孔明の話を聞いている。 「そのとき…己の身に絡みついた髪の感触が…今も消えません。そして髪まで冷やした水の 冷たさが…」 樊瑞は小さく息を吐き、指に巻きつけていた髪を孔明に突きつけた。 「これが…お主の髪でなかったらどうなるのだ？」 孔明は目を見開き樊瑞を見る。 樊瑞は目を細めて孔明を見た。 「すべてはお主の思い込みだ…策士よ、意外に純情だな」 からかわれたようなその微笑に、孔明は樊瑞にくるりと背中を向けた。 作戦を指揮する孔明の後姿、その髪に糸くずのようなものがついている。 樊瑞はついと手を伸ばし、その糸くずを取ってやった。 孔明が振り向く。 しかし以前のような苦々しい、驚いたような顔ではない。 「どうも」 樊瑞に小さく笑い、また前を向く。 樊瑞もわずかに唇を歪め、指先の糸くずをふっと吹き飛ばした。 |