あなたは見知らぬ森の中に立っている。 もちろんここは、あなたが住んでいた世界ではない。 周囲を見回していたら、がさがさと草を踏む音が聞こえてきた。 とっさに身構えたあなたの前に、ひとりの若い男が現われた。 「へえ……ここらじゃ見かけない顔だな」 男はヒィッツカラルドと名乗り、あなたを怪訝そうに見ている。 あなたはヒィッツカラルドに、自分の現状について必死になって説明するが、ヒィッツカラルドはますます怪しんでいるようだ。 「わかったわかった。じゃあなにか証明するものでもあるかい? あったら信用するよ」 あなたは、 |
ヒィッツカラルドが護送されるところを見ていた人々が、あなたのほうを見た。 だれかが叫ぶ。 「あいつもBF団の仲間だぞ!」 まるでそれが合図でもあったかのように、国際警察機構と思しき人間があなたを逮捕する。 あなたは衛生環境のあまりよくなさそうな牢に入れられてしまった。 なにを説明しても聞き入れてもらえそうにはないだろう。 ヒィッツカラルドはうまく脱獄するだろうが、あなたにそんな器用なことはできそうにない。 あなたの運命はここまでのようだ。 |
街にはそこそこ人があふれている。 しかしながら人々はあなたのことなど気にも留めていない様子だ。 このまま、ここにとどまったほうがいいだろうか。 それともあの森へ戻って、ヒィッツカラルドからの情報を待つか。 あなたは、 |
おそるおそる中へ入ってみると、薄暗い店内には漢方薬のような匂いが漂っている。 しばらくあたりを見回していると、異様な風体の人物が奥から現れた。 「私は十常寺、見たところ常連ではなさそうだ。なんの用かね」 あなたは知り合いが怪我をしているので薬が欲しいと説明する。 だが十常寺は首を振った。 「悪いが、常連にしか薬は売れない」 あなたは思い切ってヒィッツカラルドの名を出し、もう一度薬を売ってくれるよう懇願する。 そのとたん十常寺の表情が一変した。 「それなら話は別だ。今すぐそこへ案内してほしい」 あなたは十常寺とともに森へと戻る。 |
「告発したやつもBF団の仲間に違いないぞ!」 国際警察機構の人間を先頭とした人々が、診療所へなだれ込んでくる前にあなたは裏口から逃げ出した。 裏の路地を走り抜け、ほかに行くあてもないのであの森へ戻ってきてしまった。 ヒィッツカラルドが休んでいた洞穴に身を寄せ、とりあえず夜露をしのぐことにする。 翌朝、目を覚ましたあなたは朝日の中に立つ男に気づいた。 「よくも売ってくれたな」 ヒィッツカラルドが憎々しげにそう言って、あなたに指を突き出す。 あなたが弁明しようとする前に、あなたの身体は真っ二つにされてしまった。 知らなかったとはいえ、結果的にはヒィッツカラルドを裏切ったのだから当然の報いと言えるだろう。 |
あなたは自分を証明できるものがなにかないかと、ポケットに手を入れる。 「おい、ふざけるな!」 ヒィッツカラルドの怒号が響き、彼はあなたに向かって指を突き出した。 そのとたん、あなたはなにもわからないまま真っ二つにされている。 このような見知らぬ場所では迂闊な動きをするものではない。 あなたは身を持ってそれを知ったが、もう遅い。 |
あなたは、小さな食料品店のような店を訪れてみる。 ヒィッツカラルドの怪我の程度はわからないが、せめてなにか食べ物を与えたら回復するかもしれない。 見たことのないパッケージの商品に戸惑いを隠せないが、問題はそれが買えるかどうかだ。 あなたは栄養のありそうなものをいくつか手にし、優しそうな店主に声をかけてみた。 ポケットを探ると、あなたの世界の硬貨が出てきたが店主は首を振った。 「それはずいぶん昔の硬貨だね。残念だがそれで売ってあげることはできないよ」 あなたはあきらめて店を出た。 |
行くあてもないのに、あなたはとりあえず街の中をさまよってみる。 一瞬、あなたの注意がそれたとき、横から後ろに大きな円柱の管をつけた車が走ってきた。 あなたはよけようとしたがもう遅い。 悲鳴の中で、あなたは跳ね飛ばされ、全身を強打した。 あなたのことはだれも知らない。 あなたは身元不明の遺体として、当局に処分されるだけだ。 |
あなたは小さな看板を出しているクリニックのドアを叩いた。 幸いなことに、中には患者はおらず、医師が退屈を持て余しているようだった。 あなたは簡単に訳を話し、なんとか往診してもらえないかと頼んでみる。 「わかりました。ちょっと準備してきますから、ここで待っていてください」 そう言って医師は奥へと引っ込む。 あなたは待合室でイライラしながら医師を待った。 そうするうち、やけに表通りが騒がしいことに気づく。 見れば、手のあたりを拘束されたヒィッツカラルドが、数人の男に囲まれて車に乗せられるところだった。 どうやらあの医師が、あなたの表情からなにかを察して通報したらしい。 あなたは、 |
あなたは少し情けない顔をしながら、証明するものなど持ちあわせていないが、信じてほしいと訴える。 ヒィッツカラルドはしばらく考えていたが、やがて大袈裟に肩をすくめてみせた。 「お前さんの言ってる世界は、ずいぶん昔の世界だな……だがいいだろう、お前さんを信じてやるよ」 あなたは安心し、今度は逆にヒィッツカラルドがここへきた理由を尋ねた。 「ん? ああ、私か。まあ、他人の詮索はしないもんだ」 それからあなたに顔を近づけて、やたら凄味のある声を出す。 「元のところへ帰りたいだろうが、あまりウロウロしないことだ……お前さん、この世界で歓迎されると思ってるのか?」 思わず身をすくませたあなたに今度はにやりと笑いかけた。 「ハハハ。まあいい。お前さんがここへ来たことに、思い当たることがある。そのうち教えてやれるだろう。じゃあな」 意味ありげなことを言い、ヒィッツカラルドは軽く手を振っていってしまった。 あなたはとりあえずこの森を出ることにした。 |
十常寺の店へ戻ってきたあなたに、ヒィッツカラルドは軽く肩を叩いて言う。 「よかったな。お前さん、元の世界へ戻れるぞ」 奥へ引っ込んでいた十常寺が、もうひとり異装の男を伴って現れた。 「やあはじめまして。私は眩惑のセルバンテス、実は多重世界を渡り歩くことができるのだよ」 意味のわからないあなたにセルバンテスが話したところによれば、セルバンテスがその多重世界とやらを移動している際、どこか であなたと接触し、その影響を受けたあなたがこの世界へ出現してしまったということらしい。 そしてあなたはこの世界へ置き去りにされ、セルバンテスはまた別の世界へと渡ってしまった。 それで十常寺がセルバンテスを呼び戻したようだった。 「元はといえば私のせいだ。君には大変な迷惑をかけてしまった。さ、元の世界へ帰してあげよう」 |
あなたはあの洞穴に戻ってきた。 ヒィッツカラルドの姿はないが、おびただしい量の血が地面を濡らしているのに気づいた。 あなたはそれがヒィッツカラルドの血だと直感する。 この量では生きていないだろうし、無抵抗で殺されるとも思えないからヒィッツカラルドはだれか、知っている者の手にかかって死ん だのだろうと推測される。 いずれにしても、あなたのできることはなかったし、元の世界へ帰る術も失ってしまった。 あなたは絶望に打ちひしがれるだけだ。 |
あなたが森へ戻ってみると、岩陰にだれかが持たれているのが見えた。 やがてゆっくりと這うようにして、陰になっている洞穴の中へと入っていく。 あなたはそっと洞穴に近づき、静かに声をかけた。 「うん? ああ、なんだお前さんか……私か? いや、心配は不要だ。ちょっと……下手を打っただけさ」 ヒィッツカラルドは何事もないように笑ってみせるが、なにやら怪我をしているように見える。 あなたは、 |
あなたはほんのしばらく一緒にいただけだというのに、できればヒィッツカラルドのそばにいたいと願っていた。 の場にいた全員が顔を見合わせ、もう一度あなたに異存はないかと尋ねて、あなたをBF団へと歓迎する。 おめでとう! 今日からあなたはBF団の一員となった。 しかしなんの特殊能力も持たないあなたに、これからの過酷な日々が待ち受けているのはしかたないだろう。 |
どうやら十常寺とヒィッツカラルドは知り合いだったようだ。 あなたの見ている前で、十常寺が薬を与えるとヒィッツカラルドはすぐに回復した。 ふたりはなにやらひそひそと話し合い、それからヒィッツカラルドは思い出したようにあなたのことを話した。 それからまたひそひそと話し合う。 あなたがしびれを切らせるころ、ヒィッツカラルドはあなたに言った。 「どうやら、お前さんが元の世界に帰る方法が見つかりそうだ」 すっかりよくなったヒィッツカラルドは立ち上がり、あなたをともなって洞穴を出た。 そして人目を避けるようにして町へ入り、十常寺の店へと戻ってきた。 |
セルバンテスが白いマントを翻したとたん、あなたは気が遠くなった。 次に意識を取り戻したとき、あなたは見覚えのある自分の家にいる。 おめでとう! あなたは元の世界へ戻ってきた。 しかし残念なことにセルバンテスはあなたの記憶は消してくれなかったようだ。 あなたの耳には、いつまでもヒィッツカラルドの声が残っている。 |