| いつものように目を覚ました幽鬼は、シーツを見て呆然となった。 （ちゃんと昨夜トイレにいって寝たのに…） （お茶も水も飲まなかったのに…） シーツとパジャマのズボン、それに下着が濡れている。 とにかくこんなところを世話係のエージェントやカワラザキに見つかってはいけないと、幽鬼はあわててシーツを外し、 パジャマと下着を脱いでランドリーバスケットに入れようか、それとも少しだけでも自分で洗濯しようかと迷っていたとき だった。 「幽鬼くーん、起きたかな？」 ノックとともにセルバンテスの声がする。 「セルバンテスのおじさんだよー。入るよー」 「だ、ダメッ！」 とっさのことにどうしていいかわからずおろおろしてしまう。 「入ってきたらダメッ！」 「どうしたのかな？」 こういう場合、セルバンテスは遠慮しない。 なんのためらいもなくドアを開けた。 幽鬼は鍵をかけておかなかったことを少し後悔したが、エージェントやカワラザキが朝起こすのに困るから鍵をかけては いけないと言われていたことを思い出す。 「おや？パジャマ脱いでシーツ外して…ああ、オネショしちゃったんだね。大丈夫、おじさんだれにも言わないから」 一見してすべてを悟ったように言うセルバンテスに、幽鬼が食ってかかる。 「違うよ！俺、オネショなんかしない！」 「じゃあ、お水こぼした？」 「う…」 やがて幽鬼はどう説明したものかわからず、シクシクと泣き出してしまった。 「違うよ…朝起きたら…濡れてたんだ…オネショなんか…してない…」 「ああ、ごめんごめん。おじさんが悪かった」 そうしてセルバンテスはシーツから立ち上る独特の匂いに気づいた。 「あっ、なるほどね…」 「…なに？」 セルバンテスはにっこりと笑い幽鬼の不安を取り除くように頭を撫でた。 「幽鬼くんはね、大人になったんだよ」 「…どういうこと？」 「えーと、つまりね…」 セルバンテスは下半身裸の幽鬼を膝に乗せると、まだ幼い男根に触れた。 「あっ、やだぁ！」 「寝てるあいだにココから精液が出ちゃったんだよ」 そう言われて幽鬼はセルバンテスの膝を叩いた。 「違うからっ！俺、寝ててこんなとこ触ったりしないっ！」 「ああ、そうだねえ。今まではおじさんに触られて出ちゃってたからね…でも、寝てるあいだにだってなっちゃうんだよ」 勉強は教わってもこんなことは習わなかった。 幽鬼は戸惑い、言葉を失ってうなだれるばかり。 「おじさん…だれにも言わない？」 切ない目で見上げられるとセルバンテスの意地悪心に火がつく。 「さて、どうしようかなあ…」 その返事につい涙ぐんでしまった幽鬼にあわててあやまる。 「ああ、ごめんごめん。だれにも言わないから…ねっ？でも大人になった証拠なんだから、全然恥ずかしくなんか ないよ」 「でも…」 幽鬼はおずおずと口を開いた。 「パジャマとシーツ汚しちゃったから…見られたら恥ずかしい」 「幽鬼くんが本当はオネショしたんじゃないかって？」 コクンとうなずく幽鬼にセルバンテスはシーツとパジャマを取り上げた。 「着替えの場所はわかってるね？」 セルバンテスの言葉の意味がわからぬまま、幽鬼は再びうなずく。 「じゃあ着替えて。それから証拠隠滅だ」 着替えを引っ張り出してきて、古いパジャマとシーツ、それから下着をセルバンテスに渡した。 セルバンテスはそれらをひとまとめにし、己の手の中で燃やしてしまう。 「さあ、全部消し炭になっちゃったよ。おじさんと幽鬼くんだけの秘密だね」 高温で文字通り炭になってしまったゴミを、暖炉の中に捨てた。 「ぜ、絶対に内緒だからね！」 クフィーヤをつかんでそう言う幽鬼に微笑んでみせる。 「うんうん、わかってるよ」 「それと…ね」 幽鬼は頬を染めて尋ねてきた。 「また、こうなる？もう、ならない？」 セルバンテスは少し考えて説明する。 「オネショしないためには寝る前にトイレいくだろう？じゃあ…寝る前に全部出しちゃえば、出なくなるんじゃない？」 その言葉の裏に、今夜は自分の部屋へこいという意図が隠されているなど、幽鬼は気づくはずもなかった。 |